「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第62話
領主の館訪問編
<領主との雑談>
とりあえず商品の選定も終わり、カロッサさんに後見人になってもらってこのバハルス帝国で行動する足がかりを作る前準備の作業は全て終了。これで今日私がここに訪れた用事は全て終わったわけだ。
でも、だからと言って「はい。それではさようなら」と言う訳には行かないのよねぇ。どんな商談でも終わった後に雑談などをして、より親睦を深める努力をしなければいけないのよ。そうでなければ完全にビジネスライクな関係になってしまうからね。
お金だけの繋がりはとても脆い。それに対して友愛を元としたしっかりとした人と人の繋がりがあれば、多少の問題や行き違いが起こったとしても簡単に乗り越える事が出来るからなの。相手が好きか嫌いかと言うだけで人との関係の強さは大きく変わってしまう物なのだから、付き合いを続けようとするのなら常によい関係を模索し続けなければいけないのだ。
と言う事で、ここからはカロッサさんたちと親睦を深める時間である。そして、この館を訪れた時からずっと気になっていた事を尋ねるには絶好の機会でもあるのよね。
と言う訳で、早速ぶつけてみる事にした。
「カロッサさん、一つお伺いしたい事があるのですが、宜しいですか?」
「アルフィン様から私に質問とは。どのような事でしょう? たとえどんな御質問でも喜んで答えさせていただきますよ」
私の言葉ににこやかに答えてくれるカロッサさん。ここで私が聞きたい事というのは、なぜカロッサさんがこのような辺境の地の領主をやっているかと言う事なのよね。だって、騎士の称号を持つ貴族よ、それもかなり優秀な。普通ならこんな辺境ではなく他国やモンスターから民を守る為に前線の領地を任されているという方が普通なのよね。
だからこそ、これまでは何か失態を犯してこのような場所に飛ばされたのではないかと考えていたんだけど、どうも違うみたいなのよ。だって、この館に来て見かけた領主の騎士たちは皆、よく鍛えられていたもの。もし左遷で送られたのであればやる気など失っているはずだし、何よりここではそこまで力を入れて兵を鍛える必要も無いはずなのよ。だってこの周辺は村の周りに防御塀さえ作っていないほど、のどかな所なのだから。
だからこそ、この話は最優先で聞いておくべきだと私は思ったのよね。それと、
「その前に、この館にお邪魔して私は大変感服しました。と言うのもこの館に詰めている騎士たちがとても鍛えられているからです」
まず最初に褒める所から入れると言うのも、私がこの話題を会話のトップに持ってきた理由のひとつ。誰でも自分やその部下を褒められればいい気分になるからね。相手と親密になるには相手を褒めるのが一番。けなされて喜ぶ人は殆どいないはずだからね。
「ありがとうございます。アルフィン様にそう言って頂けたと聞けば、我が家に仕える騎士や騎士見習いたちもとても喜ぶ事でしょう」
「いえ。私如きの言葉でそのような」
自分の部下を褒められてとても嬉しそうなカロッサさん。返礼のお世辞を笑顔と謙遜で返した後、私は本題に入ることにした。
「そこで一つ疑問に思ったのです。なぜカロッサさんはこのような場所の領主をなさっているのだろうかと」
ここで一度言葉を切ってカロッサさんの表情を窺う。
私の言葉になにやら難しそうな顔をして黙り込んでいる所を見ると、やはり何かあると言う事なのかな? と言う訳でもう少し突いてみる事に。
「失礼とは思いましたが、ご挨拶する相手に失礼があってはいけないと、こちらに窺う前に少し調べさせて頂きました。カロッサさんは騎士の称号を持つ貴族でいらっしゃるそうで。それもかなりの武勇を誇るお家柄だとか。この国は隣の国と毎年のように戦争をし、また危険なモンスターが多く住む大森林とも隣接しているとお聞きしました。もし私がこの国の王ならばこのような場所ではなく、隣の国との国境付近や大森林のすぐ近くの領地を任せるのでは? と考えたのです」
ここまで話して一度話を切り、目の前のお茶を一口含んでから話を続ける。
「この館を訪れるまでは正直、政争に負けてこのような場所に領地を変えられたのではないかと考え、この話題には触れないで置こうと決めてここを訪れました。しかし、私の想像していた通り僻地に追いやられたのであればカロッサさんに仕えている者たちの心は荒み、自らを鍛える手は緩むでしょう。仕えている家の繁栄の道は閉ざされたと言う事なのですから。ところが先程も申し上げたとおり、この館の騎士たちは皆よく鍛えているようです。と言う事はカロッサさんがこの地の領主を勤めているのは別の理由があるのではないかと私は考えたのです」
本当は人には言えないような失敗をしたんじゃないかと思っていたとはおくびにも出さずに、真剣な表情を作ってカロッサさんを見つめる。さて、どんな答えが返ってくるかな?
ここでもしこの地がバハルス帝国にとって重要な土地だった場合、私たちの城の存在が中央に伝わると大変な事になるかもしれない。でも、それに関してはあまり心配してなかったりするのよね。だってもしそうなら、私たちの城の偵察にリュハネンさんが派遣される訳がないもの。私ならもっとしっかりとした偵察の技術を納めたプロを派遣する。でもそれをしなかったと言う事は、きっと別の理由があるはずなのだ。
「・・・」
いまだ難しそうな顔を崩さず黙り込むカロッサさん。私もそれ以上言葉を発する事は無く、部屋の中には静粛が訪れる。しかし、その静粛はカロッサさんの後ろに立つリュハネンさんによって破られた。
「子爵、やはりあの事はアルフィン姫様に御話すべきかと」
「・・・うむ、そうだな」
あれ? その口調からすると、カロッサさんがここの領主をしている理由は私たちにも関係してくる可能性があるものなのかしら?
そんな事を私が考えてい間に、リュハネンさんの言葉で意を決したような顔をしたカロッサさんは、私に向かって静かに語り始めた。
「アルフィン様、御察しの通り当家は理由があってこの地を収めております。そしてそれはアルフィン様の城にも関係がある事なのです」
「私の城に、ですか?」
あら、と言う事はやっぱり私の予想は外れていて、本当にバハルス帝国にとって大事な土地だったと言う事かしら? でもそれなら、こんな悠長な話になっているはずが無いのだけれど・・・。
「これはもう御存知の事かと思いますが、アルフィン様の城が建つ地は私どもの国、バハルス帝国の領土ではありません。と言うより、あそこは人の領土ではないのです」
「人の領土ではない、ですか?」
「はい、アルフィン様。あの地は人の体と馬の胴体を併せ持つ亜人、ケンタウロスが支配する土地なのです」
これはびっくり。何かあるだろうとは思っていたけど、まさか亜人の領地だったとはね。なるほど、それならば武門の家系の者を監視として領主にすえるのも解るわ。何か動きがあった時はその土地に詳しい者に指揮を取らせる方が何かと有利だしね。
「ケンタウロスは同じ人と馬の体を持つ亜人であるセントールとは違い、人は食べません。ですからこちらから手を出さなければ争いになる事は無いのですが、彼らは自分たちの縄張りを荒らされる事を極端に嫌い、人が迷い込めばすぐに攻撃を仕掛けられたと思い込んでしまうのです。ですから間違っても村の者たちがあちらに向かって農地を広げないようにと言う監視も私の役目になっているのです」
「迷い込んだだけで攻撃を仕掛けるのですか」
その言葉を聞いて思わずギャリソンのほうに振り返る。
「ギャリソン、そんな報告は受けた覚えはないのだけれど?」
「まことに申し訳ありません、アルフィン様。確かにケンタウロスらしき亜人が城を窺っていたと言う報告は受けています。しかし数頭が数日間の間現れただけで、今はまったく姿を現さなくなっていると言う事ですので、ただ物珍しかった為に好奇心旺盛な個体が訪れていたのだろうとアルフィン様まで御報告が上がらなかったのでございます」
なるほど、数体が見に来ただけならば確かに私まで情報が上がらないのも解るわ。だって、ケンタウロス程度なら大部隊を率いて襲ってきたとしてもギャリソン一人で撃退できそうだし、ましてや数体が見物に来ただけと言うのなら気にするほどの事でも無いからね。
「そう。でも事情を知ったからには一度調べてみる必要はあるかもしれないわね。縄張り意識が強いはずのケンタウロスが、なぜ縄張りの中に人の城ができたのに何も行動を起さないのか少し気になるし」
「それはきっとアルフィン様が女神さ・・・すみません」
またカロッサさんが暴走をしそうだったので目線だけで制しておいた。ホント、帰る前にもう一度ちゃんと言い含めないといけないわね。
「とにかく、これに関しては我が城の方で一度調べておきます。何か解りましたら、カロッサさんにもお伝えしますね」
「はい。御配慮ありがとうございます」
この後、近くの町やこの国の情勢、この世界で使われている便利なマジックアイテムの存在など(ここで私はある驚愕の事実を知る事になったけど、それはまた後ほど)他愛も無い話を1時間ほどしてから私たちはこの館をお暇する事になった。
玄関までカロッサさんたちに送ってもらうと、そこには近くの町所属の騎士だと言う二人が待っていた。
「あらライスターさん、どうかなさったのですか?」
「いっいえ、皆さんがそろそろお帰りだと聞いたもので、御見送りでもと思いまして」
顔見知りだと言うシャイナがライスターと言う騎士の顔を見て話しかけたところ、少し顔を赤めながらからは彼はこう答えた。でも、本当はお見送りだけが目的ではなかったみたいなのよね。だって、
「隊長。しっかりしてください」
「おっおう」
こんな会話を部下の騎士らしい人としているくらいだから。そう言えばこの人、まだ名前を伺っていなかったような?
「あら? あなたは最初にライスターさんと居た」
「はい、衛星都市イーノックカウの駐留帝国軍所属、ライスター隊で副隊長を務めています、ヨアキム・クスターと申します。以後お見知りおきを」
私が声を掛けるとライスターさんの横にいた騎士さんは、この国の敬礼らしき物をして自己紹介をしてくれた。ライスターさんがちょっと呆けている分、この人がしっかりしているみたいね。いや、シャイナの前だけかな? 呆けてるのは。
「所で、先程のお二人のご様子からすると何か私たちに用事があるようでしたけど、どのようがご用件ですか?」
「すみません、それは私から」
私たちの会話を聞いて、ライスターさんが慌てて話しかけてきた。そうよね、私がどのような立場の人間かは出迎えを担当したくらいだから当然知っているだろうし、そのような状況で流石に隊長が横にいるのに部下に話させる等と言う相手を軽んじた態度で臨むわけには行かないわよね。
会話の相手もライスターさんに代わった事だし、流れからそのまま話を続けようと思っていたんだけど、そこへリュハネンさんが血相を変えて割り込んできた。
「ライスター殿、どのような御用件かは解りませんが、アルフィン姫様にけして失礼の無いよう、くれぐれも御願いしますよ」
「はい、リュハネン殿。解っております」
ああ、なるほど。顔色を見て何事かと思ったけど、不躾な事を言わない様に釘を刺したのか。
別にいいのに。
「アルフィン様、実は御願いがあるのです。あなた様の護衛の方々の技を見せて頂く訳には行かないでしょうか?」
「なっ!? ライスター殿!」
ライスターさんの言葉に思わず声を上げるリュハネンさん。まぁ、解らないでも無いわよね。だって他国の姫の護衛の技を見せろなんて普通は言わないもの。技と言う物は一度見てしまえば対策を練る事が出来る。だからこそ実践に即した技は秘匿する物であり、特に得意な技はけして人には見せないのが当たり前なのよね。
ユグドラシル時代の話だけど、ある超有名なPkkギルドのギルドマスターが相手の技に対する対策がうまくて、ロールプレイ重視のスキルビルドなのにもかかわらずPVPの戦績がかなり高かったと言う話をうちの店を使ってくれていた戦闘系ギルドの人たちが話してくれた事がある。つまりそれくらい相手に手の内が知られると言うのは、こちらが不利になるという事なのよね。
「まぁまぁリュハネンさん、きっとこの方の話は続きがあるはずですから、まずは全て聞きましょう」
「アルフィン姫様がそう仰るのであれば」
でもそんな事が解らないはずも無いから、この話にはきっと続きがあるのだろう。と言う訳で、リュハネンさんを制してライスターさんに話の先を続けてもらう事にする。
「ありがとうございます。当然実践的な技を見たいと言うのではありません。ただ、身のこなしからそちらの方々は私どもよりかなり力量が上と御見受けしました。ですから、その身のこなしだけでも見せていただければ色々と勉強になると思いまして。ライスター殿、これはあなた方子爵付きの騎士たちにもチャンスなのですよ。これほどの方たちの動きをその目に出来るチャンスなど、そうは無いのですから」
「なるほど、そういう意味ですか」
ライスターさんの言葉にリュハネンさんもやっと納得する。
「確かにこのような田舎では力ある者の動きをその目で見る機会などそうは得られる物ではないでしょうな。アルフィン様、私からも御願いします。アンドレアスたちにアルフィン様の騎士たちの動きだけでも御見せ頂けないでしょうか」
「そう言う事でしたら別にかまわないのですが・・・動きと言うと、そちらのどなたかとお手合わせをするのですか?」
ただ歩いたり走ったりする訳ではないだろうし、空手などと違って演舞があるわけではないから動きを見せろと言われても困ってしまうののよね。
「いえ、流石にこちらのメンバーでは手合わせどころか数度剣をあわせる事すら出来ないでしょう。しかしそうですね、手加減して打ち合ってもらったとしても見取り稽古としてはあまり意味を成しませんから・・・。そうだリュハネン殿、こちらには稽古用の撃ち込み鎧はありますか?」
「えっ? ええ、裏庭に練習用のものがありますが」
撃ち込み鎧? ああ、剣道で言う所の竹刀を打ち込んで練習する防具をつけた器具みたいな物の事ね。
「あれを使って打ち込みをしてもらいましょう。それならば剣速や身のこなしを見せてもらう事ができますから。宜しいですか? アルフィン様」
「ええ、それくらいなら大丈夫だと思いますよ」
そう言って私は許可を出した。だけど・・・。
「アルフィン、ちょっと問題があるんだけど」
「なに? 何かあった?」
裏庭に移動した所で、シャイナが私に話しかけてきた。どうやら何か問題が発生したみたいね。
「場所が悪いよ。あの撃ち込み鎧って奴、館を背にしてる」
「うん、そうみたいね。でもそれがどうかしたの?」
シャイナの言葉に撃ち込み鎧らしき物がある方へと目を向けてみた。すると確かに館を背にはしている。だけど十分距離は離れているし、私の目には別に問題があるように思えないんだけど? でもシャイナが言うのだから、私が気付かない何か問題点あるのよね。と言う訳で理由を聞いてみたんだけど、
「問題大有りよ。あれじゃあ、ヨウコやサチコが剣を振るっただけで後ろの館にまで被害が出るわよ」
「えっ!?」
驚く事にこんな答えが返って来た。
どうしてそんな事になるのよ? そう疑問に思って聞いてみたところ、彼女らのスキルビルドに問題がある事が判明した。彼女たちってレベルこそ高いけど戦闘スキル自体は接客や舞台の役柄でコスプレする際に色々な武器や防具を装備できるようにと、別々なスキルを少しずつ取っているの。今回はこれが問題になっていて、威力は50レベル前後の攻撃力なのに技がそれについて行っていないから、スピードや技の切れをそのまま出そうとすると威力を抑える事ができないらしいのよね。
「剣圧を押さえるには威力を1点に集中させる技が必要なんだけど、彼女たちは3〜4レベル前後のスキルばかりだからどうしようもないのよ」
「う〜ん、せめて一つ位10レベルのスキルを取らせておくべきだったわね」
今更歎いても後の祭り。まぁ、ユグドラシル時代はこの子達はあくまで接客用のNPCだったから仕方がないと言えば仕方がないんだけどね。まさかこんな世界に転移するなんて夢にも思わなかったし。
「仕方がないか。シャイナ、あなたならできるでしょ?」
「私? ええ、私ならできるけど」
そう言いながらシャイナは自分の姿を見下ろした。そこには真っ赤のドレスがそよ風に揺れていた。
うん、確かに剣を振るう格好ではないよね。でも残念ながら背に腹は変えられないと言う言葉がこの世の中にはあるのよ。
「動き辛いだろうけど、ここは我慢してやってもらえないかしら。セルニアはマジックキャスターだから任せられないし、ギャリソンは執事と言う立場でこれから行動してもらわなければいけないから、実は強いと言う所を見せてしまう訳には行かないし」
「そうね・・・解ったわ。私がやる事にする」
と言う訳でやり辛いであろうとは思うけどシャイナしかできる人がこの場にいないのだから仕方がない。意を決したシャイナは、ゆっくりとした歩調でライスターさんの方へと歩いて行った。
「ライスターさん、すみませんが剣を貸して頂けないかしら?」
「別にかまいませんが・・・シャイナ様が剣を振るわれるのですか?」
シャイナがライスターさんから剣を借りるのには理由がある。
「ええ。ヨウコたちでもいいのだけれど、彼女たちの武器はあれだから。撃ちこみ鎧への剣戟には向かないでしょ」
「ああ、なるほど。確かにそうですね」
今日ヨウコ達が腰に帯びているのは儀礼用のレイピアなのよ。あれでは撃ちこみ鎧に斬り付けたら普通は折れてしまうのよね。まぁ、シャイナならそんな事が起こる心配は無いからヨウコたちの剣を借りてもよかったんだけど、どうせなら向こうが使っている剣で見せた方がインパクトがあるものね。
「でも大丈夫なのですか? そのようなお姿で」
「心配してくれてありがとう、でも大丈夫よ。別に斬り合いをするわけではなく、ただあの鎧に数度斬り付けるだけだから」
そう言うとシャイナはライスターさんから剣を借りて2・3度軽く振ってみせる。
私にはなんと言う事も無いしぐさに見えたのだけど、その振りを見てライスターさんやリュハネンさんの顔つきが変わったところを見ると、見る人が見れば違うのでしょうね。
「うん、これなら(剣圧で)折れる心配は無いかな」
「はい。ただの鉄製の剣ですが、手入れはしっかりしてあるので撃ち込み鎧に数度打ち込んだ位では折れたりはしませんよ」
微妙なニアンスのすれ違いを感じる会話の後、シャイナはライスターさんににっこり微笑んで撃ち込み鎧の前に立った。
「鎧、壊れちゃうけど、いいわね?」
「あっ、はい、大丈夫です。ですが・・・」
リュハネンさんの「はい」と言う返事を受けた瞬間、シャイナの雰囲気が変わる。それを感じ取ったリュハネンさんは何か言いかけたんだけど、その言葉を飲み込んでしまった。私から見ても解るくらい気が高まっているものね。
外見上は、力を抜いてただそこに立っているだけの様に見える。でも、近寄れば一撃の下に切り伏せられるようなあの雰囲気は・・・うん、多分演出だ。
だって、本気でそこまで力を入れて技を放ったら館ごと一刀両断にしてしまうからね。100レベルの前衛の剣と言うのはそれほどの威力があるものなのだから。でもそんな事を知らない騎士さんたちは、これから行われる剣技にそれほどの集中力を持って挑んでいると思い込んで固唾をのんで見守っている。
「行きます」
シャイナはそう一言呟くと滑るかのように数歩前に進み、
キンッ、キンッ、キンッ
100レベル後衛職である私でも何とか防ぎきる事ができるくらいまで落とした剣速で三度撃ち込み鎧に切りつけ、その威力はスキルを使うことにより剣を受けた一点に集中して、鉄の鎧を紙のように切り裂いた。
ドンッ、ドスッ、ガラン
庭に響く、切り裂かれた鎧が地面に落ちる音・・・って、何この音、ちょっと変じゃない?
そう思い、斬られて地に落ちた鎧を見てみると、
「へっ?」
何これ? 鎧じゃなくって、鎧の形をした鉄の塊に肩当とかをつけて鎧っぽく見せていただけの物じゃない。
「なっ!?」
「なんと、まぁ」
その事実に驚いていると隣から二通りの反応が。リュハネンさんは鉄の塊が切り裂かれたのを見て大いに驚いているようだけど、どうやらライスターさんはあまり驚いていないみたいね。
「私の剣でもあれほどの事ができるとは。流石シャイナ様だ」
「なっ何を落ち着いているのです、ライスター殿。鉄の塊ですよ、鉄の塊をあのように両断するなんて!」
そりゃ驚くよねぇ。常識的に考えたら絶対無理だもの。でもライスターさんは驚いていない。と言う事は、これができる人を知っていると言う事かな?
「音に聞こえる王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフは一太刀の間に6度岩を切り裂くほどの武技を使いこなすと言います。私の見立てではシャイナ様はおそらくそれ以上の使い手ですからね。これぐらいの事をしてもおかしくはないでしょう。しかし使い慣れた御自分の武器ではなく私の剣を使ってそれをなしたのには、私も少々面は喰らいましたけどね」
やっぱり。この世界にも強者はいて、これくらいの事はやってのけると言う事なのね。でもライスターさんがいてくれてよかったわ。もしリュハネンさんたちだけしかいない所でこんな事をしてしまったらまた大騒ぎになっていたかもしれないもの。
あっでも、この状況を作った原因もライスターさんだっけ。
想定外にシャイナの力の一端を見せる事になったものの、大事にならず心の中で一人ほっと胸をなでおろすアルフィンだった。
あとがきのような、言い訳のようなもの
因みにこの後、カロッサ子爵には「ライスターさんも語ったように隣の国の人もできる事ですからね」とまた女神様騒ぎにならないよう、念を押しておいたのは言うまでもありません。
さて、長かった領主訪問編はこれで終わりで、次回はハーメルンの感想で語った今まで出てきていないイングウェンザーのNPCを使った番外編を挟むつもりです。また一部の人にはオーバーロードとまったく関係ないと騒がれそうですがw
オーバーロードに関係あるなしと言えば、この頃は今まで必然的に出していた口だけの賢者やジルクニフのようなパターンではなく、わざわざ場面を作って少しずつキャラ名を出すようにしています。本当はこの先○○○に行った時点でオーバーロードに関係した名前を出すつもりだったのですが、この頃少々騒がしかったので。ハーメルンの前書きにも連載当初から”ナザリックのメンバー”はたぶん出ないと書いてあるんだけどなぁ。
最後にケンタウロスとセントールですが、実は同じ物です。でも草原に住むモンスターで亜人となると他に思いつかなかったので別の物として設定して登場させることにしました。また、これによってこのシリーズのメンバーの秘密は全て出尽くしました。ですから今度こそ、数日中に人物紹介のページにこのシリーズのメンバーの項目を追加するつもりです。